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第9話 カツカツの暮らし

Aвтор: 灰猫さんきち
last update Последнее обновление: 2025-03-15 16:30:00

 冒険者になった俺は、さっそくギルド内の依頼掲示板を見てみた。

 魔物討伐や素材納品依頼が定番らしいが、中にはちょいちょいショボいのもある。

 落とし物捜索やら、お年寄りの散歩の付き添いなんてのまである。

 流石にそういうのは鉄貨五枚とか、子どもの小遣いの依頼料だ。

「すみません。この辺で安い宿屋に泊まったら、一泊いくらかかりますか?」

 受付のおっさんに聞いてみると、

「素泊まりなら銅貨四枚ってとこだろ」

 という話だった。

 つまり一日に宿代の銅貨四枚と食費を稼がなければ野垂れ死にするってことだ。

 ……厳しくない?

 依頼掲示板の誰でもできそうな依頼をやっていたたら、宿代だけでカツカツ。食費が出せなくて飢え死に直行。

 かといって毎日野宿していたら、体が持ちそうにない。

「あとそれから、解呪の巻物は一枚いくらですか」

「銅貨五十枚だな」

 げげっ。その日暮らしでいっぱいいっぱいなのに、その金額はなんだ。

 この呪われた剣と盾とお別れできそうにない……。

 俺は思わずすがるような目で受付のおっさんを見つめたが、目をそらされた。

「いいか新入り、いくら厳しくてもギルドは仕事の斡旋以上の手助けはしない。たとえそれで野垂れ死んでもだ」

「ちょっと厳しすぎじゃないですか」

「世の中そんなもんだよ。それでも生き延びていけば、対価次第で新しいスキルの習得なんぞも紹介してやる。せいぜい一日でも長く生きるんだな」

 取り付く島もない。

 これ以上、おっさんとぐだぐだ問答する時間も惜しい。

 俺はもう一度、依頼掲示板に向き合った。

 本日は、いくつかの依頼を受けた。

 一つ目は埠頭近くに住むザリオじいさんの散歩の付き添い。

 最近足元がおぼつかなくなったじいさんのために、娘さんが手配した依頼だ。

 二つ目は港のゴミ拾い。最近ポイ捨てがひどく、

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